2013年4月7日日曜日

連載「ゲーマーのための読書案内」第41回:『拷問と処刑の西洋史』_1

 「モンティ?パイソン」日本語版が再販され,「どき魔女2」の発売予定も明らかになったこのタイミングこそ,ともすれば好事家向けの話題に終わってしまう題材を扱うチャンスかもしれない。今回は浜本隆志氏の『拷問と処刑の西洋史』を紹介しよう。ヨーロッパにおける最新の研究を豊富に参照しつつ,異端審問と魔女裁判,はたまた拷問具「鉄の処女」などについて,きちんと学術レベルで考察した本だ。  大上段に振りかぶった書名が目を引くものの,この本の価値は総論でなく各論にある。少なくともヨーロッパ社会の闇を包括的に捉えるには題材が局限されすぎているし,結びの章も至極漠然としていて,得るところがないように思われる。  それに対して各論部分には,なかなか興味深い情報が含まれている。例えば異端審問における死刑判決の割合はどのくらいだったか。バチカンの文書館(アルヒープ)に残る4万4647件の記録のうち,処刑の割合はわずか1.8%だったというカトリック側の見解がある。一方でM.v.フェラールが1864年に著した,1481年?1808年のスペインにおける事例をカウントした本では,28万8244件のうち,処刑が3万4658人,収監中の死や脱走による,「人形の処刑」1万8049人分で,前者だけなら12%,両者を合わせれば18.2%ほどである。  事の性格上,正確なカウントなどしようもないのだが,少なくともこれらの数字は,異端審問が必ずしも死に直結しているわけでなく,看板どおり改宗の強要を基本とした手続きであったことを物語っている。  もちろん,取り調べ過程での拷問は,中世の刑法事犯であれば当然付き物であって,このあたりの発想はRTSで,処刑台を設置して領民に恐怖を植え付けたほうが,兵士が強くなるといったブラックなルールとも共通している。  一方,さらに陰惨な印象のある魔女裁判ついてはどうか。こちらはA.ハリンガーの研究によって,ヨーロッパ全域における被告人数が約11万,そのうち処刑が約6万人というから,かなり致命的な社会現象だったことが分かる。  ただ,ここにもいろいろつきまとっている俗説があって,例えば水に浮いたら魔女というのは,ドラゴンクエスト10 RMT,ホウキや火掻き棒にまたがって飛べるのだから軽いはずという理屈に基づいているわけだが,運良く沈んだ場合でも,そのまま見殺しにして“神の御許”に送るわけではない。無実と思われた人は,きちんと引き上げられている。  また,魔女狩り全体を当事者の経済的利得,つまり没収財産を目当てに行われたと見るのも,あまりに近代的な発想であるようだ。実際,G.ショルマンが挙げたマインツ選帝侯領ローアにおける魔女狩りの収支では,きちんと赤字が出ているのである。  では,なぜそんなことをしたのかといえば,これは魔女や悪魔が実在すると信じていたから,としか言いようがないらしい。魔女は天変地異や不作,疫病をもたらすといわれていたため,社会不安が高まると担当部局にプレッシャーがかかるという社会病理そのものであり,決して一部のサディストによる凶行などではなかったようだ。  とはいえ,機に乗じて残虐なふるまいをした人物や,没収財産でがっぽり私腹を肥やした人も,きちんと確認されているわけだが。  ヨーロッパ中世を正面から扱ったでは,異端も魔女も出て来ざるを得ない。家長が異端の信仰に目覚めて教皇庁に破門されたり,FF11 RMT,世継ぎ(“魔女”には男性もいるのだ)が魔女の疑いをかけられて修道院送りになったりと,それはそれは身につまされる場面にも出くわす。貴族階級は拷問にかけられることこそないが,魔女の嫌疑を免れられるわけではないのだ。  この本でもう一つエピソード的に面白いのが,有名な拷問/処刑具「鉄の処女」の実在は,まだ確認されていないというくだりである。現存する「鉄の処女」についてはことごとく資料分析が済んでおり,これらはみな,中世に不貞者を辱めるために着せた(?)「恥辱の樽」の改造品なのだという。信頼できる現物は,一つもないそうだ。  史料の不在は決して現実の不在を証明するものではないが,魔女裁判に関する記録に当たる限り,人はもっとありふれた方法で責め殺されているとのこと。その実用価値への疑問と併せて,「鉄の処女」は一種の都市伝説,グロテスクなファンタジーにすぎないと見る研究者も多いのだそうである。  死には一種のポルノ性があり,人口に膾炙されるうちに誇張されたりアレンジされたりする可能性も高い。一方現実の殺戮者が実に陳腐かつ官僚的である例は,ハンナ?アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』を読めば,確認できることだろう。  典型的な魔女裁判のフローチャートとマニュアル,そしてマリア?テレジア法における拷問の位置付けなども見どころではあるものの,継続的な殺戮が,あからさまな異常者によって引き起こされるとは限らないという意味で,人間性について深く考えさせられる本といえよう。
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